|
「医の心」より - 医師をどう育てたら良いか -
*今ではもう市販されていないようので、この本が私の手元に届くまでの間、仮置きさせていただきますネ^^
医師をどう育てたら良いか -私の提案-
「医の心」-榊原 仟-(昭和47年・1972年発行)より一部抜粋 P39~P45
どの職業でも大学を出たばかりのものをその道の専門家と考えるものはない。それぞれの職場で働き訓練されているうちに一人前に育ち専門家となる。
その訓練される場所が一流の大学でなければならなくて、実際に患者の診療が熱心におこなわれている病院ではいけないと考えている人達が医科には案外多い。またそうだと信じている大学生の先生方さえいる。そして少数の患者に多数の被訓練者が殺到し、実地の訓練を受ける機会が少なく、しかも時間的に余裕があるから、アルバイトに出かけて金を得たりしているのが、医学界の実情だ。どんな職場にも定員制があるべきなのに、医科だけは定員を無視して集中する。その結果無給者が出ると「けしからん」と非を鳴らす。他方、大学以外の各病院や各医療施設では患者が殺到しているのに医師が不足し、病院だけがあって運営のできないような所がある。無理に医師を求めれば、一人前になっていない、訓練中の若い医師が、某大学の先生ということで、破格な高額の報酬を得てアルバイトに出張する。危ない事である。アルバイトに出ていれば金銭には困らないから大学に居残り、人生の最も重要な才能ののびる時期を慢然と過ごしてしまう。
試みに医科以外の領域を眺めてみよう。大学を出ても一人前になったと見とめられない点では、どの科も同じだ。その状態で会社や官庁にはいり、それぞれ職場を得て俸給を受ける。はいった会社や官庁で、それぞれ訓練されながら働いている間にその道のエキスパートとなり後輩を指導する立場になる。この場合、訓練は大学でしかできないものだと考えるものもなく、大学で全員の訓練を引き受けるなどというのもない。まして、ある職場だけがすぐれており、そこに全員がはいれるのでなければけしからんとか、その職場が必要としていない人数が無理にはいりこんで、月給をくれなければけしからんなどというばかげた理論を振り回すものはない。どうして医科だけが大学至上主義を捨てられないでいるか、私にはわからない。大学至上主義がいかに若い医師を不幸にしているかをもっと考えてみる必要がある。
どこの世界にも競争はある。大学の教室に残る事が医師の訓練を受ける最高の方法だと信ずるならそれはそれでよい。そう信ずる者達が殺到するだろうから、当然数の制限をうけなければならない。訓練には設備の程度と患者の数などの関係から訓練させうる者の数は決まってくる。だから、試験その他の方法で選択するのは当然で、競争に負ければ次善の職場に流れるのはこれまた当たりまえだろう。次善の職場が訓練に適さないというのなら、その場所を改良するか他を選んで教育をうけるなりすればよい。少数の患者で多数の医師が訓練を受けるよりは、多くの患者で実地の訓練を受ける方がはるかによい医師になれる。いわゆる医学者になれなくても、よい医師になればよろしい。医学者になりたいなら最初から別の道を歩むべきだ。
世間にも、いまだに誤った考えがはびこり、そのために医師の偏在を招いて医師不足を起こしている。それは若い医師を信じないということと、大学で勉強している先生はすべて偉いという間違った判断だ。大学にはことし大学を出たばかりの医師からその道の大家まで、つまりぴんからきりまでの医師がいるのに、大学の先生だから偉いなどと誤って考えている。反対に町の医師は大学の先生に比べて劣っていると思っている。しかも年が若いほど駄目で、老人ほどりっぱな医師だと信じているのだ。世間がそうみるだけでなく、開業している医師自身でさえそう考えている人がいる。また、病院の院長などもそう考えているらしい。だから部長が辞職すると、後任を新しく大学病院から求めて、自分の病院で長く勤務した人を昇格させようとしない。社会がそうだから、大学の医学部を出て若い時代に病院に就職したりすると、いつまでも下働きをさせられてしまう。部長になる望みもない。従って、できるだけ長く大学にいて、年をとり外見は大先生にみえるようになってから就職しないと損することになる。かくて、実績は臨床の経験が少ない、ただ理屈にくわしい医師が大学にはびこるようになる。また、大学の病院には医師がありあまっていて少数例の患者にひしめきあっているのに反して、患者の多い一般病院では医師の不足に悩まされている。ひどい大学病院では一人の患者に平均三名もの医師がいる所がある。そこで臨床の経験をえるのは無理というものだろう。
一般に医師が不足しているのは、治療が複雑化したために医師の手を多く必要とするようになったことと、地方の各病院が大きくなったことがあげられるが、医師の大学病院への偏在も重要な原因となっている。だから、医師不足を補おうとして大学をいくら作っても医師の偏在を是正しない限り効果はないと思う。なぜなら医師がその新しい大学に集まるだけのことだから。では、医師の偏在を防ぎ若い医師の時間と経費との浪費の悲劇をなくすためにはどうすればよいのか。私は認定医の制度を速やかに実施するのが良いと思っている。大学を出て一定期間、たとえば五年くらい一定の資格をもった指導医のもとで、一定の規格内以上の設備のあるところで、一定数以上の患者を責任ある立場で診察した医師に対し、内科医、外科医あるいは眼科医等の学会認定証を与えるのだ。大学病院はもちろん訓練の場にはなりうるが、患者数の関係で現在のように多くの被訓練者を採用するわけにはいかない。単に遠くから治療を眺めていたり、議論だけしたり、動物実験をしたのでは、臨床医としては訓練不足である。
こうした認定医制度が実現すると、医師の大学病院への偏在が是正される。他方、大学以外の大病院は医師の数をそろえなければならないから設備を充実して資格あるりっぱな指導医を集めようとする。その結果、全国の医療水準が上昇する。訓練中といっても、それ相当の給料が与えられるから、生活は安定して、アルバイトのようなことはしなくてもすむ。またしてはならない。
私は一人前の医師を養成するには、大学卒業五年ぐらいの期間で十分と思っている。ただし、従来のような時間のロスは許されない。りっぱな指導者のもとで、多数の患者を相手に寝食を忘れて勉強しなければならない。学会の認定した証明を持っていれば一人前の医師として通用するので、どの職場へでも堂々と就職できる。いたずらに年齢を重ねて老いこむ必要はない。就職した場所でさらに訓練を続け、次第に地位も進み、りっぱな指導者に成長していくのは医科以外の世界と同様になる。必要があれば大学病院や外国の病院などに留学して実力をつけるようにすることも、また同様である。医学の進歩を促すためには研究は必要だ。そのためには十分な設備を整えた所で、すでに認定医の訓練期間をすませた医師が研究にあたる。ここで研究する医師は専門的に研究だけする医師であってもいいし、臨床と研究とを同時に行う医師であってもよい。おもに大学病院のようなところに研究所が作られて、その運営に必要な医師の定員が確保される。ただし、医師以外のてですまされるような仕事は医師にさせない。医学の研究がいかなるものかを知らせる目的で短期、臨床訓練中の医師を研究所に働かせるのは良いが、いわゆる人手をみたすために働かせるべきではない。よい指導者になることの条件の一つは、医学の進歩に貢献することもあるだろう。だから大病院には研究の施設がほしいが、五年の訓練期間は研究のために時間をさかないようにすべきだ。でなければ訓練期間を延長しなければならない。
認定医の科目は内科、外科、婦人科、眼科などおおざっぱなものにとどめる。循環器内科、消化器内科などの専門分野に進むものは認定を得てから後に進めばよい。これからの専門医は医師を教育するために教育医として必要である。だから、医師の訓練の場に必要なだけの数をみたすに足りればよいわけで、せいぜい全体の医師の一割もあればよいだろう。それより大切なのは一般科医だ。現在、内科医が一般科医のような仕事をしているがが、これは間違いである。内科、小児科、外科、婦人科の知識を持っていて、その治療ができる医師を一般科医とする。ただし、非常に専門的な内科治療、複雑な外科手術などはしない。
社会が必要としているのはこうした医師である。全体の医師の七割くらいは一般科医であるべきだと思う。建築士に一級、二級があるように一般科医にも自然と等級ができるだろう。そうなれば、医師は最優秀な一般科医師になるように努力する。また努力に値する魅力をもたすようにしなければならない。従来は一つの臓器を勉強している医師を専門科医として特に尊敬する傾向にあったが、一般医科が認められるようになればその傾向は減るだろう。一つの臓器の専門家の方がすぐれているのは当然だから...。しかし一部に通ずる専門家も必要である。彼等がその分野の医学を進歩させ、それを一般科医に教えるのだ。専門医を特に重視しないで一般科医を一つの専門科医と認めるようになれば、社会の需要度に応じて各科の専門医が生まれるようになる。それは、現在、各科の医師数が自然に定まっていることからも予測できる。そしてその場合、一般科医がおそらく六割ぐらいを占めることになるだろう。専門医は教育病院に必要なだけだから、現在のように多いと、就職が困難になるので自然にそうなる。
こうして医師の訓練法が他の学科と同じになって、若い医師が能力の枯渇しない時期にそれぞれそれ相当の部署につくことができる、医師の不足が解消すれば、ある臓器の専門訓練をうけた医者が一般医と同じような診療をするために失われていた時間のむだが解消する。もちろん無給医などというけしからん状態は消失するはずだ。
Grab this! TOPへはコチラからも行けます。
「医の心」 榊原 仟(しげる) 著
(昭和47年・1972年発行)より一部抜粋
◇ 医の心・・・全8編はこちらよりお越しください。
◇私と「医の心」との素敵な出会いにつては、
コチラよりどうぞ⇒ http://withcoffee.exblog.jp/4214182/
◆ サイト内関連記事 ・ Team Medical Dragon Debut 2007/10/12
・ 知識ある者の倫理 2007-11-11 UP
・ 果たすべき貢献とは? 2007-09-08 UP
・ 日本の外科医、存亡の機 2007-09-06 UP
◇サイト外関連記事
・ - 新時代の看護師に求められるもの - 日野原重明氏
2007-12-14 UP
人気ブログランキングに参加中です。
元気な心と日本を取り戻そう♪
"ちょっと読んでみたくなったな♪"と思ったらポチッとネ^^
|
|
|
|
|
|
|
世界の片隅に小さな小さなcafeをオープン♪ 心も体も元気でいれるようにコーヒーを飲みながら...ひと息つきましょ.。.:*・゚☆
S |
M |
T |
W |
T |
F |
S |
|
|
|
|
|
1
|
2
|
3
|
4
|
5
|
6
|
7
|
8
|
9
|
10
|
11
|
12
|
13
|
14
|
15
|
16
|
17
|
18
|
19
|
20
|
21
|
22
|
23
|
24
|
25
|
26
|
27
|
28
|
29
|
30
|
31
|
ファン
ブログパーツ
ライフログ
以前の記事
カテゴリ
|
|
|