医療の質と経営向上へトヨタ式
米病院「カイゼン」奏功
米北西部ワシントン州シアトルにトヨタ自動車の生産方式を導入し、医療の質と経営の改善を
進めている病院がある。バージニア・メイソン・メディカル・センター。全米でも屈指の評価を
受ける同病院の強みは、ちいさな「カイゼン」の積み重ねだ。日本が誇るトヨタ方式は米国で
病院版として洗練され、逆輸入される日も近づいている。
「これも『カンバン』方式の一例です」。九月にオープンしたばかりの同病院の新手術棟。
設計段階からかかわったロビー・ビショップ医師が手術室の備品棚を指しながら説明する。
注射器やガーゼなどの備品を入れたケースの棚板は斜めに傾き、取り出すと残りの容器が
にずれて、補充が必要な品回や個数が一目で分かる。しかも、備品の補充は手術室に面して
ない外側からできるため、学術室をクリーンに保つことができる」(ビショプ医師)など、安全面
にも配慮している。
「必要な時に必要なものを必要な量だけ」というこうした工夫は、実際に日本を訪問し、トヨタ
の工場を視察した病院職員らの提案によって実現した。手術棟ロビーのモニターは患者名を
番号に置き換え、待機中や手術中など状態がリアルタイムで分かるよう表示。患者や家族が
長時間待されることはなく、職員も効率的に動ける。
- 工場への視察団 -
トヨタ方式との出会いは2002年にさかのぼる。ゲーリー・カプラン院長兼最高経営責任者
(CEO)によると、病院役員の中に偶然、トヨタと関係があった米航空機メーカー大手ボーイン
グの元社員がいたのがきっかけだったという。カプラン氏は「メイヨー・クリニックなど米国の
優良医療機関を訪ねたが、質と安全、経営を包括する最高のマネジメント手法は医療界に
存在しなかった。だから業界の外を探した」と当時を振り返る。
これまでに計9回、院長や幹部以下三十人前後の視察団を組んでトヨタの自動車工場や
トヨタ方式を採用した他社の工場を見学、病院の運営に取り入れてきた。
導入当初は懐疑的だった職員たちも、視察の成果が出るにつれて見方が変化。カプラン氏
は「視察に乗り気でなかった医師が『人間は車ではないが、多岐にわたる病院業務の85%
は車造りと同じだ』と言って賛成してくれた」と語る。トヨタ方式が畑違いの医師や看護師らを
納得させたのは「付加価値を生まない無駄の削減」という大原則だった。
内科病棟に設置された「フロアーステーション」はその一例。廊下沿いの簡易デスクに医師と
看護助手が並んて座る。以前は医師の個室に助手が届けていた書類や伝言などを、患者を
診察するごとに両者が確認する方式に改めた。記入ミスや予約の間違いなどが減ったほか、
医師が深夜まで書類整理に追われ残業代がかさむ悪循環が解消され、内科部門は約30年
ぶりに黒字に転じた。
05年には、看護技能が不要な仕事は他のスタッフに任せ、小規模な詰め所の数をふやし
て看護師が近くの患者だけを診るシステムに変更。看護が患者に接する時間は勤務時間の
35%から90%超に増え、手厚い看護が可能になった。小さな工夫が生む"利子"も積もれば
山となる。同病院によると、残業代は一年で約50万ドル削減。病室や検査室、備品倉庫など
を効率的に配置することで、設備投資は約千百ドル(10億円強)も節約できた。
- チームを表彰 -
安全への取り組みは不幸な医療事故により、一層強化された。04年、女性患者がエックス
線撮影時に造影剤ではなく消毒薬を注射され、死亡した。病院側は遺族に謝罪して和解、
安全対策強化を約束した。遺族の意向を受けて女性患者の名前を冠した「患者安全賞」を
創設、評価すべき対策に取り組んだ院内のチームを表彰している。事故は容器の表示や
薬剤の取り扱い方法を見直し、コンピューターによる処方の誤りを「事実上ゼロ」(同病院)に
減らした。昨年には、成功のうわさを聞きつけた英国の公的医療制度(NHS)の幹部も同病
院の日本視察に同行したという。
毎週金曜の昼過ぎ、同病院では各部門の「カイゼン・チーム」が取り組みを発表する会議が
開かれ、院長以下百人前後が多忙な業務の合間を縫って参加する。カプラン氏は「トヨタが
示したように質の向上と経営の改善は相互に矛盾しない。私がカイゼン活動をやめると言え
ば、病院職員は反乱を起こすかもしれない」と笑う。 日本の工場ではぐくまれた改善の種は、米国の西海岸の病院にもしっかりと根付いたようだ。
(ニューヨーク=中村博之) 日本経済新聞 2008年11月23日(日曜日)より
- MANAGEMENT CHALLENGES for THE 21ST CENTURY - Peter F.Drucker
変化は、つねに組織の外からやってくる
これはピーター・F・ドラッカーの『明日を支配するもの』(1999年)に書かれているもの。
下記もその本文より。(p171~p173)
病院でも、患者が意識不明に陥ったような緊急時には、
看護婦が行うべきことはあらかじめプログラム化されている。
しかし、通常、患者の面倒をみるか、書類に取り組むかを決めるのは
看護婦自身である。
知識労働者の生産性向上のための最初に行うことは、
行うべき仕事の内容を明らかにし、その仕事に集中し、
その他のことはすべて、あるいは可能なかぎりなくしてしまうことである。
だがそのためには、知識労働者自身が、仕事が何であり、
何でなければならないかを明らかにしなければならない。
それができるのは知的労働者自身である。知識労働者の生産性向上を
はかるには、知識労働者に対し、行う仕事は何か、何でならなければならないか、
何を期待されているか、仕事をするうえで邪魔な事は何か、
を問うことが必要である。
これはある大病院で、看護婦達にこの問いかけを行ったところ、
実際に起こったことだった。仕事は何かとの問いかけに対する答えは、
大きく二つに分かれた。一方は患者の看護と答え、一方は医者の補助と
答えた。ところが、生産性を邪魔しているものについては、全員の答えが
一致した。書類書き、花生け、電話への応対など、彼女たちが雑用と言っ
ているものだ。
それらの雑用は、看護婦よりも給料の低い病棟事務員に任せることができた。
そこでさっそく、看護婦達の生産性、すなわち本来の仕事に使える時間は
倍になった。患者満足度も倍以上になった。それまで絶望的に多かった
中途退職者が激減した。これらのことはすべて、わずか四ヶ月間に起こった。
- MANAGEMENT CHALLENGES for THE 21ST CENTURY - Peter F.Drucker
★ ピーター・F・ドラッカー『プロフェッショナルの条件』(2000年)
-日本の読者へ モデルとしての日本人- もご覧になることをオススメいたします^^
★関連エントリー
◇ちょっとドラッカー
こちら⇒ (全5 2008年11月現在)
◇ブライアン看護婦の原則
こちら⇒
◆ photo P505is・・・この写真は別新聞記事のものです。
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